集英社文庫として出た堀田善衞の『ゴヤ』4巻がこの2月で完結しました。最終巻の解説を書いたのですが、70年代の単行本として出たとき、朝日文芸文庫に入った90年代、そして集英社文庫でリニューアルして再刊された2010〜11年のいずれの版も読んだことになります。この評伝を書いたとき、堀田さんは50代。自分の年齢と比べて、これだけ大きな仕事をしていたことにあらためて畏敬の念を抱きました。画家の評伝はいっけんとっつきにくいかもしれませんが、この『ゴヤ』を通して、ヨーロッパが現れ、イスラーム文化との接触、アジア・アフリカとの相互浸透がすけて見えてきます。まったく古びていない、どころかますます新しい。
去年、亡くなった父が、1年前の正月、熱海に泊まりに来ていた時に、『方丈記』を読みたいと言い出したのを思い出します。古典文学の文庫や全集を高円寺においているので、堀田さんの『方丈記私記』を渡すと、それを正月のあいだ、ずっと読んでいました。もちろん、何度目かの再読、再々読だったはずなのですが、「うまい、書き方がじつにうまいなぁ」と感に堪えないように言っていたのを覚えています。