M9784840694209八木書店から森井マスミさんとの共編による『新派名優 喜多村緑郎日記』第1巻が刊行されました。全3巻で、今後、3ヶ月おきに刊行の予定です。喜多村については、何度かこのブログでも紹介してますが、水谷八重子、花柳章太郎の師匠格にあたる新派劇の俳優で演出家でもありました。伊井蓉峯、河合武雄と並ぶ新派三頭目と呼ばれましたが、なかでも歌舞伎や新劇、新国劇など、日本の伝統演劇が近代化するなかで苦闘した時期に活躍し、女形でありながらリアリズムを追求する矛盾をまるごと生きた演劇人です。

とりわけ、この人は泉鏡花や谷崎潤一郎、久保田万太郎らと親しく、鏡花戯曲の古典化を成功させるなど、演劇と文学の交流に大きな役割を果たしています。今回の日記は、1930(昭和5)年頃の低迷していた新派が復活をとげる時期から、1937(昭和12)年の総力戦体制移行期までを翻刻したもので、東京や大阪のモダンな都市風景のなかで、円熟期を迎えた演劇人がどのような生活を送っていたかが一望できます。古川緑波の日記も面白かったですが、日々の演劇興行の実態、観客の入りや芝居の巧拙について細かくふれたり、たくさんの映画や小説への言及もあり、時代の証言として豊かな鉱脈をなしています。日本大学総合学術情報センターにその大半が眠り、一部が早稲田大学演劇博物館に所蔵されていたものを、今回、数年間をかけて翻刻、活字化しました。部数が少ないため値段は高いですが、資料価値は高いと自負しています。ぜひ、各図書館や研究室にお揃えください。