大橋毅彦さんから「上海1944-1946」(双文社出版)という本をいただく。「媒」という同人雑誌のこともずいぶん昔のことになってしまったけれど、20代の大学院生のころ、大橋毅彦さんや高橋世織さん、大井田義彰さん、吉田司雄さんたちとで研究同人雑誌をやっていました。その頃大橋さんは室生犀星などにとりくんでいたのだけれど、最近は上海にこだわって、今回の本は武田泰淳の「上海の蛍」についての詳細な注釈。6人の共著で、「上海の蛍」自体はそれほど長くない小説なのだけれど、むしろその倍以上の長さの注釈をつけ、注釈自体を読ませようというのが目的。
ちょうど、ぼく自身が秋の堀田善衞展編集の関係で、この2ヶ月ほど堀田の「上海敗戦日記」の翻刻・編集にかかりきりになっていてようやく原稿を渡したところ。その絶妙なタイミングにこの本が届いたのでさっそく拝読。なるほど、なるほどと膝を打つ注釈も出てくるし、やっぱりそうか、うーん、そうだったかとひとりごちたくなる記述もあり、半日で読み通してしまいました。
一昨日、日大国文学会で講演していただいた十川信介さんは、注釈的研究を前から提唱していました。これも昔のことになるけれど、その十川さんから誘われて、小森陽一さん、山本芳明さん、関礼子さんたちと「十三夜」や「銀の匙」の注釈に取り組んだときのことを思い出します。いずれも「季刊文学」に掲載してもらったのですが、「十三夜」のときは十川さんが途中、病気で入院され、最後の校正を山本さんと二人、岩波書店で徹夜でしあげた記憶があります。朝、そのまま岩波から大学に行くような羽目になり、こういうことは二度としたくないと思ったものですが、似たようなことはその後も二度三度。
ただ、注釈作業自体は、歴史的事実や風俗、背景の調査にとどまらず、テクスト分析にまでおよぶところが面白いですね。