記録映画作家の佐藤眞さんが亡くなった。衝撃的なニュースだ。朝方、インターネットのニュースで知り、東京に戻ってきたら、優れたドキュメンタリー映画を観る会の飯田さんからも留守録が入っていた。
かれの第一作「阿賀に生きる」はすごい映画だった。新潟水俣病の患者たちの日常をとらえて、土本典昭監督の水俣シリーズとはまったく異なるタイプの記録映画をつくりあげた。それは記録映画とか劇映画といったジャンルを超えて、もう映画以外のなにものでもありえないような表現にいたっていた。70年代から聞きかじっていた記録映画の概念をやぶったのもこの映画だった。なによりユーモアがあり、公害病という苛酷な運命を背負わされながら、しかし、自分たちの日常をしっかり生きているひとたちの、おかしくてかなしい人生があらわれていた。怒りを潜めながらも、人に対する温い気持の伝わる映画だった。
去年、人文研の共同研究で「エドワード・サイード OUT OF PLACE」の上映会をやったときも講演に来てくれて、一緒に雑談しながら昼御飯をたべた。とってもやさしい目をした人で、そのあたりの柔らかさは多くの人に記憶に残っている。その柔らかさの奥にきびしさがあったのだろう。「OUT OF PLACE」に出てくるパレスチナの老人の話になったとき、「けっきょく、ぼくのやり方はいつも同じになってしまう」とふと洩らされて、デビュー作で真に革命的な傑作を撮ってしまったことのつらさにふれたような気がしたのだが、それにしても50代を迎えて、また新しい地平が開けることもあったろうに。その死は日本の映画のみならず表現にかかわるものにとって大きな空白になると思う。まずは心より冥福を祈りたい。