IMG_0554高橋英夫さんから文人荷風抄 [単行本]をいただき、拝読した。「図書」に連載されていたものであるが、永井荷風の「断腸亭日乗」を辿ることから、そこにあらわれた「曝書」の記載へ注目することから、ゆるやかで、しかし思索をともなう散策が始まる。漢籍や和本を多く所蔵した荷風は毎年、本の虫干しを欠かさなかった。本を虫干しするという意味での「曝書」。この言葉が出てくる場面を追いかけながら、その行為のもった意味、そして曝書と連想する記載にはどのようなものがあるかが探られ、やがて荷風の小説に出てくるのと同じ「雪子」という女性が現れることを発見する。この女性と荷風は戦時下、フランス語を教えられ、教える関係であったらしい。小説を模倣するような人物の出現に対して、著者はことごとしく構えることなく、文学と人生の一筋縄ではいかない、不可分の関係を見ていくことになる。ゆったりとした文体といい、この評論集を読むことによって、べつな次元に招かれているような思いにとらわれる。時間の余裕を失い、慌ただしく生きるわたしたちにとって、思考のいきづまりをほどいてくれるようなさわやかさがある。