IMG_1025 すでに高榮蘭さんがFBに書いていますが、 ようやく共同の論文集『検閲の帝国 文化の統制と再生産』(新曜社)を刊行しました。ソウル大学の鄭根埴さん、成均館大学の韓基亨さん、李惠鈴さん、そして同僚の高さんとぼくとの編集になります。この5年ほど、「検閲」という共通テーマで日本と韓国を行ったり来たりしながら研究会を続けてきました。帝国時代の日本と植民地朝鮮における「検閲」、そして敗戦/解放後のアメリカ占領期の「検閲」、さらに占領後の両国における「検閲」をさまざまなトピックから切り込んだ18篇の論文と、40頁以上におよぶ日韓検閲年表からなります。
 韓国語版も同時に準備が進められていて、近々、発行予定です。かなりの大著になって、ややうろたえ気味ですが、日本側の執筆者はご覧のように同僚の金子明雄さん、小平麻衣子さんはじめ、十重田さん、内藤さん、五味渕さん、榊原さん、鳥羽さんと重厚な方々にご協力いただきました。年表は尾崎名津子さんの労作。最後の藤井さんは成均館大学の研究教授。メンバーとしても日韓入り交じった構成となりました。とりわけ韓国側の論文の翻訳にあたってくれた金誾愛さん、高橋梓さん、金泰植さん、和田圭弘さんには厚く御礼申し上げます。

第1部 検閲の拡張、揺れ、転移
鄭根埴 植民地検閲と「検閲標準」
紅野謙介 文学を検閲する、権力を監視する──中西伊之助と布施辰治の共闘
韓基亨 「法域」と「文域」――帝国内部における表現力の差異と植民地テクスト
十重田裕一 植民地を描いた小説と日本における二つの検閲──横光利一『上海』をめぐる言論統制と創作の葛藤
李鍾護 検閲の相転移、「親日文学」という過程
高榮蘭 占領・民族・検閲という遠近法──「朝鮮/韓国戦争」あるいは「分裂/分断」、記憶の承認をめぐって

第2部 検閲されるテクストと身体
金子明雄 「風俗壊乱」へのまなざし――日露戦後期の〈筆禍〉をめぐって
李惠鈴 植民地のセクシュアリティと検閲
内藤千珠子 目に見えない懲罰のように――一九三六年、佐藤俊子と移動する女たち
李承姫 植民地朝鮮における興行市場の病理学と検閲体制──アリラン症候群をめぐって
小平麻衣子 誰が演劇の敵なのか――警視庁保安部保安課興行係・寺沢高信を軸として
李旻柱 植民地朝鮮における民間新聞の写真検閲に関する研究──『朝鮮出版警察月報』と新聞紙面の対照分析を中心に

第3部 アイデンティティの政治──検閲と宣伝の間
五味渕典嗣 ペンと兵隊――日中戦争期戦記テクストと情報戦
鄭鐘賢 ペテロの夜明け──植民地転向小説と「感想録」の転向語り
榊原理智 移動と翻訳──占領期小説の諸相
林京順 新たな禁忌の形成と階層化された検閲機構としての文壇
鳥羽耕史 「原爆詩人」像の形成と検閲/編集――峠三吉のテクストが置かれてきた政治的環境
藤井たけし ある『政治学概論』の運命──ポスト植民地国家と冷戦

尾崎名津子・孫 成俊編 日韓検閲年表